1.可搬式歯科用ユニットとは
可搬式歯科用ユニットは、在宅診療や施設診療、学校・イベント会場など、
チェアユニットのない環境でも歯科処置を行うための小型診療装置です。
キャリーケース型やキャスタ付きボックス型が多く、
電源・エア・給排水・ハンドピース類をひとまとめに搭載し、
「持ち運べる小さな診療スペース」として機能します。
2.可搬式ユニットの基本構造
機種によって細かな仕様は異なりますが、可搬式ユニットに共通する基本構造は次のとおりです。
2-1.本体(キャビネット部)
丈夫なケース(アルミフレーム・樹脂ケースなど)に、
コンプレッサ・配管・操作パネルなどが組み込まれています。
持ち運びに対応するため、
軽量化
取っ手・キャスター
緩衝材・ロック機構
が工夫されていることが多いです。
2-2.電源系統
多くは**AC 100V(または 230V)**を外部から取り込み、
内部のコンプレッサやバキュームポンプを駆動します。
サージ保護・ブレーカ・電源スイッチなどが本体前面または側面に配置されます。
一部機種では、短時間使用向けにバッテリー搭載型もありますが、
一般的には「コンセントから給電」が前提です。
「写真の由来:Greeloy® GU-P301 可搬式歯科用ユニット 移動歯科診療台」
2-3.エア供給系(コンプレッサ)
小型コンプレッサを内蔵し、
タービン用エア
エアモーター
3ウェイシリンジ
などに圧縮空気を供給します。
噛み込み防止フィルタや減圧弁、圧力計などが組み合わされ、
使用中の圧力を一定に保つよう設計されています。
2-4.給水・排水系
給水ボトル(タンク)
清潔な水を供給するための専用ボトルが装備されています。
タービン・シリンジ・超音波スケーラーなどへ供給されます。
排水タンク
スピットンやサクションからの排液を溜めるタンクが設けられ、
診療後にまとめて廃棄します。
※給水・排水ともに、洗浄・消毒・乾燥を行いやすい構造であることが感染管理上重要です。
2-5.ハンドピース接続部
多くの可搬式ユニットは、以下のような接続ポートを備えます。
ハンドピース用エアライン(タービン用・ストレート/コントラ用)
超音波スケーラー接続ポート(内蔵タイプもあり)
3ウェイシリンジ(エア/水/エア+水)
本体前面にホルダーと一緒に配置され、
通常ユニットと近い感覚で操作できるようになっています。
2-6.サクション・バキューム系
可搬式ユニットには、簡易的なサクション機能を備えるものが多いです。
エジェクタータイプ(エア駆動の簡易吸引)
小型バキュームポンプ内蔵タイプ
吸引力は院内チェアユニットほど強くない場合もありますが、
歯周治療・簡易外科、小修復処置には十分な性能を持つ機種もあります。
2-7.操作パネル・計器類
電源スイッチ、圧力計、エア量調整ノブ、モータ回転数調整など
必要最低限の操作系がコンパクトにまとめられています。
機種によっては、
タイマー
スケーラ出力調整
フットスイッチ接続
なども装備されています。
「写真の由来:Greeloy GU-P 302S 可搬式歯科用ユニット 移動可能歯科器具台 (高さ調節可能)」
3.一緒に準備しておきたい「必要アクセサリー」
可搬式ユニット本体だけでは診療は完結しません。
実際に運用する際には、次のようなアクセサリーをセットで準備しておくと便利です。
3-1.ハンドピース類
タービンハンドピース
コントラアングル/ストレートハンドピース(低速用)
必要に応じてマイクロモータ
超音波スケーラチップ(ペリオ用・スケーリング用など)
訪問診療では、滅菌サイクルや1日の患者数を考慮し、
予備ハンドピースを複数本用意しておくと安心です。
3-2.フットペダル(フットスイッチ)
ハンドピース・スケーラのON/OFFや回転数制御に用います。
電源コード・エアホースの取り回しと合わせて、つまずき防止の配慮が必要です。
3-3.X線撮影関連(必要に応じて)
ポータブルレントゲン本体
デジタルセンサー/IPプレート/フィルム
センサーホルダー、フィルムホルダー
防護エプロン
※ユニットとは別機器ですが、在宅で診断を完結させるには重要な組み合わせです。
3-4.感染対策用品
ディスポカバー(ホルダー・ハンドル・操作部用)
バリアフィルム(スイッチや持ち手の保護)
サクションチップ・シリンジチップ(ディスポ)
グローブ、マスク、アイシールド、ガウン
表面消毒用ワイプ/スプレー
可搬式ユニットは凹凸が多く清拭しづらい部分もあるため、
バリアテクニックで「汚さない」工夫がとても有効です。
3-5.給水・排水関連
予備の給水ボトル(交換用、用途分け用)
排水タンクの予備またはライナー
ボトル洗浄用ブラシ
洗浄・消毒液(次亜塩素酸ナトリウム、専用洗浄剤など)
訪問先では十分な洗浄設備がないことも多いため、
**「持ち帰ってからの洗浄を前提とした運用」**も考慮して準備します。
3-6.電源・延長コード類
延長コード(十分な長さ・許容電流のもの)
テーブルタップ(安全ブレーカ付きが望ましい)
コンセント位置が遠い施設でも使用できるよう、余裕を持った長さを確保します。
3-7.その他のサポート機器・備品
ポータブル照明(暗い室内やベッド周囲での照明補助)
折りたたみチェア/簡易ヘッドレスト
器具トレー、ディスポトレー
搬送用カート、段差・階段用の移動補助具
4.運用上のポイント
4-1.セットアップと片付けを「手順化」する
可搬式ユニットは、
設置(位置決め・電源・ホース接続)
動作確認(エア・水・サクション・フットペダル)
診療
洗浄・消毒・乾燥
収納・運搬
という流れを必ず踏みます。
手順をチェックリスト化しておくと、
接続忘れ・水漏れ・動作不良などのトラブルを減らすことができます。
4-2.衛生管理を「院内ユニットと同レベル」で考える
給水・排水系の洗浄
ハンドピースの滅菌
表面消毒・バリアの交換
など、基本的な考え方は院内と同じです。
「持ち運びだから少しぐらい…」と妥協せず、
標準予防策に基づいた衛生管理を徹底することが重要です。
5.まとめ
可搬式歯科用ユニットは、
小型のコンプレッサ・給排水タンク
ハンドピース接続部
サクション・3ウェイシリンジ
操作パネル・電源系
などをひとつのケースに収めた、**「持ち運べる診療ユニット」**です。
これに加えて、
ハンドピース・フットペダル
感染対策用品
延長コード・照明・簡易チェア
X線機器(必要に応じて)
といったアクセサリーを適切に組み合わせることで、
院外でも安全で質の高い歯科診療を提供することができます。

